150万枚のメガ・ヒットを記録した『SUPERMARKET FANTASY』、さらにツアーでは80万人という破格の動員を果たした2009年のMr.Children 。それは結成20年目というアニヴァーサリーに相応しい、実にアクティヴな姿だった。しかし今年に入り、彼らの周辺は意外なほど静かである。ここらで充電? いや、決して歩みを止めたわけではない。まったく新しい発想の“LIVE”(=今)を届けるべく、水面下で準備を進めていたのだ。
ドーム・ツア−を成功させる程のこのバンドが、計6回、すべて足しても1000人ほどの前でレコ−ディング&シュ−ティングした貴重な映像が存在する。それが本作、『Split The Difference』である! この試みがスタートしたのは、彼らがホームグラウンドにしている都内のレコーディング・スタジオだった。ある日、普段はミーティングに使われる部屋にワインや食事が運ばれ、パーティの準備が整えられた。そこに招かれたのは、友人や知人が30人程。その中に僕も居た。 “いったい,何が始まるのだろうか…”。わくわくしながらメンバーと会話などしていると、スタジオの中へと招かれた。普段は部外者が立ち入らない場所なのだが、桜井の簡単な挨拶に続き演奏が始まる。「寛ぎ」と「集中」が適度に混ざり合った空気と言えばいいだろうか…。でもそれが彼らの演奏を弾ませた。 演奏が終わった後の拍手や歓声は、スタジオの中にも届けられ、こうして“レコーディングのようでライヴでもある”という新たなアイデアが、現実のものとなった。 そんなスタジオでの3回のセッションを経て、Motion Blue YOKOHAMAでのステ−ジが実現する。ジャズ・クラブという場所柄が別の角度から彼らの演奏を磨き上げ、ファンクラブ会員を招いたThe Globe Tokyoへと場所を移す。今回、最大規模となるこの場所(といっても観客数は440人)では、ブラスやストリングスなど、スタジオでは果せなかった編成が実現した。幸運にも選ばれその場にいたファンの人達は、もちろん熱烈に彼らを歓迎した。でも面白かったのは、みんなこの試みを理解していたことだ。ただ熱狂するのではなく、どこかにそれを見守るという冷静な態度があったのだ。 ところで…。みんなが一番知りたいことにまだ触れてない。そう、どんな楽曲が演奏されたかである。ひとつの特徴があった。決して有名な作品ばかりが選ばれたわけではなかったのだ(それどころか,コアなファン以外はすぐに思い出せない曲も選ばれた)。でも、この映像作品を見終わったなら、2010年のMr.Childrenの姿を、もっともリアルに伝えるのがこれらの曲だと納得するはずだ。彼らのキャリア、今、バンドとして考えうる最高のアンサンブルの追求、さらには楽曲と時代との相性などを鑑みつつも…。そんな研ぎ澄まされた音圧を、ぜひ映画館の座席で体感してみて欲しい。 さらにこの映画には、もうひとつの見どころがある。この試みの実現に向けた打ち合わせ風景や、リハーサル現場の樣子が垣間見れることだ。近いスタッフによりごくフラットな目線で撮影されたものであるからこその真実が、そこにはある。ひとつの楽曲が、Mr.Childrenというバンドのなかでどのように成長していくのかも捉えている。いつしか我々は、そのミーティングやリハーサルに、自分も立ち合ってるかのような気分になる。 時折みせるメンバーの表情の中には、ステージでは見られないものもある。それぞれが担当する楽器、自分のプレイと向き合う時の真摯な姿は印象的だ。バンドとは、まず各々がやるべきことを全うすることで成立するという事実も、はっきり伝えてくれている。 ここに映し出されるのは普段の彼らだが、普段の彼らこそがどっぷり音楽に浸かっていることが分かる。一部の会話シーン以外、何らかの形で必ず音が鳴っていることがその証明でもある。ここにあるもの、それがMr.Childrenの偽らざる今の姿だし,よりよい表現へと立ち向かう、瞬間瞬間の姿にこそ意味がある。まったく新しい発想の“LIVE”(=今)は,こうして確かに記録されたのだった。 (TEXT BY 小貫信昭) |